一人でプロデュース・作詞・作曲・編曲を手がけた女性歌手のアルバムということで、私に思い出されるのは、近田春夫がつくった風見りつ子の『Kiss Of Fire(キッスオブファイヤー)』(1985年)だ。
先のTeddyLoidのアルバムの特設サイトにあるプロダクションノートでは、近田春夫を「超オールドスクール」と評している。曲名「VIBRASKOOL」は、近田率いるヒップホップバンド「ビブラストーン」(1987年結成)に由来している(SKOOLの意味がわからなければ検索せよ。私もわからず検索した)。
私は同じ「VIBRA」でも、さらにその前のニューウェーブバンド「ビブラトーンズ」に高校生の頃、ハマッた世代にあたる。ミニアルバム『Vibra-Rock(バイブラ・ロック)』とメンバーがバックと作詞・作曲を務めた平山みきのアルバム『鬼ヶ島』(ともに1982年)によってである。30年以上前、レコードの時代だ。
大学進学で都会に出たらライブを見にいきたいと思っていたが、1984年、FMラジオから解散ライブだという演奏が流れてきた。翌年(1985)、4月に近田プロデュースによる風見りつ子の1st『キッスオブファイヤー』、5月に近田以外のメンバーが中心のバンド、PINK(ピンク)のバンド名と同じタイトルの1stアルバムが発売される。当然、私は両方買った。LPレコードを。レコードプレイヤーは居間に置かれていて、姉との共有物だったので、初めて聴くときにテープに録音してしまい、それぞれの部屋でラジカセで聴くことになる。
いまも日本語ロック・ポップスの名盤に数えられる『鬼ヶ島』は、70年代歌謡曲の歌姫、平山みき(三紀)が、テクノにエスノにユーミンまでまぜたニューウェーブサウンドにのせ、ひねった設定(受験生の弟をもつ姉とか)の歌詞を歌った。
一方、『キッスオブファイヤー』は、無名の新人歌手、風見りつ子に一聴、歌謡曲的な演奏・バックコーラスにのせ、「夜の大人の世界」をモチーフにした雰囲気重視の歌詞を歌わせたなかに、思いつくかぎりの音楽的な遊びをつめこんだ作品。
対照的な2作だが、近田による企画先行なわけではなく、風見がビブラトーンズのファンで、『鬼ヶ島』収録曲を歌ったデモテープを近田に送り、その声質からアルバムコンセプトができあがった。
さて、1980年代の終わりはレコードからCDへの移行期だった。レコードで所有していたものも、CD化されれば買いなおした。『Vibra Rock』は1stアルバムとセットで『ビブラトーンズFUN』としてCD化され(1988年)、『鬼ヶ島』もCD化される(1991年)。そのうち、『キッスオブファイヤー』もと思いつづけて幾星霜……。
CD化されたのは、2013年10月24日。日本コロンビアのオンデマンドCDとしてだ。廃盤や在庫切れになったCDもしくは未CD化音源を1枚単位で受注生産するサービスで、2008年から始まっていたらしいが、知らなかった。そのラインナップに加わったのである。
私はネット上でたまたま気づいて購入した。私のパソコンでアマゾンの『キッスオブファイヤー』のページを表示させると、上部に「お客様は、2013/12/30にこの商品を注文しました。」と表示される。その時の状況を忘れているわけだが、年末の夜で時間があったのだろう。思いついたものは何でも検索してみるものだ。
3曲目「恋に溺れて」、4曲目「恋人達に明日はない」、5曲目「夜のすべて」の流れは、20年ほどぶりに聴いてもやはりよい。「恋に溺れて」の12インチミックスのような天井知らずの高揚感。「恋人達に明日はない」後半の間奏で、同じフレーズを延々くり返すキーボードと男性コーラスには「ライブかよ!」と突っ込みを入れて笑わずにはいられない(この曲は7分もある)。
歌詞における頭韻と脚韻の多用や、曲やアレンジにおける過去のヒット曲からの“パクリ”は、ヒップホップに傾倒していた当時の近田ならでは。
と、エラそうに書いたが、前段は、LPについていた「『精神』と『構造』」という物々しいタイトルの近田自身によるライナーノーツに書かれていることである。
ありがたかったオンデマンドCDだが、ライナーノーツは、曲ごとの一言コメント部分のみが印刷され、その4倍ぐらいの長さがある「『精神』と『構造』」は割愛されている。このCDを買って、アマゾンなどにレビューを書く人は、その点で星ひとつマイナスしてください。
(出典: sunrise-pub.co.jp)